Year6(小学6年生)が終わる年の11月。次男のKが、突然
「日本の中学校に通いたい!」
と言い出しました。
最初は一時的な気持ちかもしれないと、しばらく様子を見ていました。が、日本から中学生向け問題集をマレーシアに持ち帰り、自主的に受験勉強を始めてから、すでに半年が経とうとしています。
親としては可能な限り子供の気持ちを真剣に受け止めたいと思っているのですが、仮に「中学生で日本に帰国」したとしても、そのまま日本のカリュキュラムで大学まで行くのか?それとも、ここまで続けてきたケンブリッジ式で、国際資格になるIGCSEの取得まで目指すのか?さまざまな進路の選択肢を考え、情報を収集してみました。
次男Kが「自分の日本語に不安を感じた」きっかけ
我が家の次男Kは、小学1年生の終わりにマレーシアのインターナショナルスクールを受験、Year2-3とコロナ禍リモート授業を経て、小学4年生にあたるYear4から現地の学校の対面授業を受ける形で学んできました。家庭では、日常会話は日本語で、また、アカデミックな母国語としては学年相当の教科書の音読や、読解問題をサポートする程度の緩い日本語学習をしていました。
そんな彼は、昨年(小学6年)の一時帰国中、日本の友達との会話や、テレビのニュースについてあれこれ議論する家族親戚の様子を見ながら、ある不安を抱くようになっていたようです。
「自分は日本語がうまく使えていないかもしれない」
助詞の使い方を兄に指摘されたことや、難しい言葉が分からなかったことが重なり、Kは自分の日本語に日に日に自信をなくしていったようでした。特に幼馴染との会話では、大きなショックを受けたようです。
マレーシアに戻り、Year7が始まるタイミングで
「やっぱり日本の学校に戻りたい。自分の日本語をもっと伸ばしたい」
という気持ちが「ひとりで受験勉強を始める」行動へと繋がりました。以降、Kは自ら「帰国子女受験」を情報をネットで検索し、受験できそうな学校を調べ、持ち込んだ問題集を使って、今もひとりでコツコツと勉強を続けています。
時々chatGPTで面接練習をしているようで、志望動機を話す履歴が残っていました。そこには、「自分は日本人なのに、日本語に自信がない」という彼の率直な思いが残っていました。
ケンブリッジ式教育とは何か?
話を一度、現在受けているケンブリッジ式教育(Cambridge Curriculum)に戻して考えてみます。
ケンブリッジ式は、日本でいうと「江戸時代の末期」、戦前どころか明治時代にすら入っていない時代にスタートした、とっても歴史ある国際的な教育カリュキュラムです。
※ちなみに、今の日本式は戦後(GHQ下で)、そしてIB(国際バカロレア)はさらにその後の1968年設立されています。
年齢を目安にした「教育ステージの区分」
ケンブリッジ式教育では、子どもの発達段階に応じて次のような「教育ステージ(教育段階)」に分かれています。年齢はあくまで目安で、実際の進度は学力や学校によって前後する場合もあります。
※2025年現在のマレーシアでは、VISA取得の関係もあり、基準年齢に沿っての学年に編入という方針が強まっているようです
- Cambridge Primary(5〜11歳):日本でいう小学1年生〜6年生にあたる基礎学力の土台作りのステージ
- Cambridge Lower Secondary(11〜14歳):日本の中学校にあたる応用力・論理的思考を育てる時期
- IGCSE(14〜16歳):中等教育の修了試験。日本でいう中学3年〜高校1年相当
- A Level(16〜18歳):大学進学準備課程。日本の高校2〜3年相当。専門的な科目に絞って深く学びます
特に特徴的なのは、試験や評価を通して、論理的思考力・読解力・記述力を養う点で、すべての教科を英語で学び、世界で共通の試験により学力を証明できる所に強みがあります。
IB・日本の教育との違い
ケンブリッジ式は、知識と論理の積み上げを重視し、IBは自ら問いを立てて学ぶ力を育てます。日本の教育は基礎学力と生活習慣の確立を軸に置いています。
項目 | ケンブリッジ式 | IB(国際バカロレア) | 日本の教育 (GHQ統治前を含む) |
---|---|---|---|
発祥 | イギリス | スイス | 日本(明治政府/GHQ) |
開始年 | 1858年 | 1968年 | 1872年(学制) 1947年(学校教育法) |
特徴 | 試験重視・知識評価・論理力 | 探究型・プレゼン・内省力 | 一斉授業・記憶力・協調性 |
評価方法 | 試験(記述多め) | レポート・口頭発表・試験 | テスト・通知表 |
学び方 | 英語で各科目を学ぶ | 探究中心のプロジェクト型 | 教科書と教師中心の授業 |
IGCSEとは?中学生で出会う「進路の分岐点」
IGCSE(International General Certificate of Secondary Education)は、Cambridge Lower Secondaryの後、14〜16歳で受験する国際的な中等教育修了試験です。日本で言う中3〜高1相当の学年です。
実際、私たちの周りでIGCSE後の進路を見ていると
- IGCSE後、A LevelやIB校で学び→海外大学へ:国際進学
- IGCSE後、ファウンデーションコースに進み→海外大学へ:国際進学
- IGCSE後に帰国し、高認や通信制高校に編入→国内大学へ:ハイブリッド型
- A Level卒業後、日本帰国→日本の大学へ(A Levelを採用している大学も増えてきています)
が多く、更に世界に目を向ければもっとたくさんの進学方法・進路が存在しています。
実際に、日本国内での大学への進学を考えた場合、日本式で高校を卒業していれば問題ないのですが、次男Kの場合は、一度は日本の学校に戻りたいが、大学は海外の方が良いかもしれないとも考えているケース。
それなら、このまま帰国・転校をしない方が良いのではないかと思うのですが、現時点では、本人の「日本の学校教育への憧れ」はとても強い様子。
そうなると、日本の中学に編入後、再び海外大学進学を視野に入れるのであれば、多くの国で標準進学資格として認定されているIGCSEは取得した方がメリットが大きいため、日本に帰国子女として戻った後に、個人でIGCSE受験を出来る場所を調べてみました。
日本でのIGCSE個人受験(Private Candidate)について
IGCSEには、学校に所属せず個人で受験する「Private Candidate」という制度があり、この制度はKのように中学生前後で日本に帰国した場合、または国内の中高に通いながら海外大を目指す方にとって、IGCSEの受験を視野に入れられるという大きな選択肢になり得ます。
また、インターナショナルスクールに在籍中でも、その学校で提供されていない科目・試験を個人で受けたい場合も、この制度を使って、受験したい科目を個人で追加受験することが出来ます。
日本国内でIGCSEを受け入れている試験センターは限られているので、リサーチと準備は必要です。
ブリティッシュ・カウンシルを通じた個人受験
ブリティッシュ・カウンシルは、Cambridge IGCSEおよびInternational A Levelの公式試験センターとして、個人受験者(Private Candidate)からの申し込みを受け付けています。公式HP情報はこちら。
※受験可能な科目は「メールにて問い合わせ」となっています。
問い合わせはこちら:exams@britishcouncil.or.jp
日本国内にあるケンブリッジオンラインスクール経由での個人受験
日本国内にあるケンブリッジオンラインスクールでもIGCSEのカリキュラムを受けられるため、自宅からの学習継続は可能です。これらのスクールは、Cambridge Internationalから認定を受けているので、正式な資格取得が可能です。(最新情報は各学校にお問い合わせください)
スクール名 | 特徴 | 対象学年 | 公式サイト |
---|---|---|---|
JOI (JyukeLabo Online) | 完全オンライン、ハイブリッド学習対応、オーダーメイドカリキュラム(10科目から選択) | 小学生〜高校生 | 公式サイト |
Nisai British Online School | ケンブリッジ認定、ライブ授業、録画機能あり(12科目から選択) | 中学生〜高校生 | 公式サイト |
Crimson Global Academy | ニュージーランド発祥、多様な学習スタイル(10科目から選択) | 中学生〜高校生 | 公式サイト |
Cambridge International School オンライン | Cambridge認定、週4回のライブレッスン(10科目から選択) | 小学生〜高校生 | 公式サイト |
ケンブリッジ国際認定校での個人受験
日本国内には、Cambridge Internationalから認定を受けた学校が24校あるようです。(2025年5月現在。公式サイトより。)これらの学校では、在籍生徒がIGCSEを受験できるほか、学校によっては外部生の受験を受け入れている場合もあります。外部性(個人受験)を受け入れているスクールは、Cambridge school(private candidates)で最新版を確認することが出来ます。
2025年5月時点で個人受験が可能(Private candidates accepted)となっているのは、以下の4校。
- Ascot International School Japan
- British Council Japan
- Deutsche Schule Kobe International
- Kohana International School
ですが、詳細は各学校に直接、余裕をもってお問い合わせをされると良いと思います。
海外・インターナショナルスクールで育った子どもに起きやすい「日本語ギャップ」について
Kのように幼少期から英語で学ぶ環境にいると、日常会話では支障がなくても、以下のような「見えにくい日本語の壁」が生じていることがあります。
- 助詞(が・を・に・は)の使い分けがあいまい
- 説明文や意見文を書くのが苦手
- ニュースや時事用語の理解が遅れる
- 同世代の日本人の言葉のスピードやニュアンスに戸惑う
Kの場合も、学年が上がるにつれ、日常会話以上の高度な日本語能力が問われる場面で、書く・読む・議論する際に、母語のように感覚的に使いこなせないもどかしさが現われているように感じます。
次男のKが、今自分で選び進んでいる道
Kは今、「日本の中学に行きたい」という自分の気持ちに向き合いながら、日々試行錯誤をしています。私たち家族は3年越しの別居生活を終えて、やっと一緒に暮らせるようになったところ。Kが日本帰国を望んで切ることを知り、パパも「え?また離れて暮らすの?」という気持ちを抱いていると思います。
でも私は母として、自分で考え、動き、決めた次男の姿を見て、その思いをできる限り応援したいと思っています。
この先、Kが日本に戻るようになるのか、または、このままマレーシアでIGCSEを受けるのか、それとも別の選択をするのか・・・そのあたりは、正直まだわかりません。でも、どんな道でも「なぜそれを選んだのか」が本人の中で明確であり、「自分の意志で」動く力がある限り、どの道を選んでも、それが彼にとっての正解になっていくのだと思っています。
まとめ|海外教育を選んだご家庭に知っておいてほしいこと
ケンブリッジ式やIBなど、魅力的な海外の教育カリキュラムには多くのメリットがあると思っています。論理的な思考力や、国際的な価値観を自然に身につけられる点も大きな魅力だと思います。
けれども、「母語である日本語が思考と言語の土台としてどれだけ大切か」を痛感させられる場面には、学年が上がれば上がるほど多々遭遇する様になります。
既に海外で生活をしていたり、インターナショナルスクールに通学している中で、もし、皆さんの子どもたちが「言葉に対して違和感」や「表現しきれないもどかしさ」を感じているようであれば、それは「学力」の問題ではなく、言語の習得バランスの問題もあるのかもしれません。
海外で育つ子どもたちが、日本語でも英語でも「自分の考えを語れる力」を育てるには、日常の中で母語にしっかり触れ、支える環境が間違いなく必要です。我が家で次男Kが実践していた「時々教科書の音読、週に何ページか読解問題をする」程度では、日本語ネイティブからは少しずつ乖離してしまうのだと実感しました。
我が家の次男の生い立ちが、同じように考えるご家庭のヒントになれば嬉しいです。
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